幻のポポ

子どもの頃、我が家の庭には果物の木がいくつもあった。桃の木が3本。ぶどうの棚。びわの木。裏山に行けば柿の木。イチジクの木。おやつ代わりに食べれるのはうれしいけれど、桃やぶどうはちょっぴりすっぱかった。店に売ってある果物のほうが断然美味しい。
そのうち、手入れをしないので桃やぶどうはいつの間にか庭から姿を消した。なくなっても、お店の桃やぶどうのほうが美味しいので何も困ることはなかった。
ところが、我が家にはもう1本果物の木があって、この実は売られていない。「ポポ」という名の果物。まっすぐな木で、随分と高さがあったように記憶している。実の形は楕円形で緑色。中は、バナナをもっと黄色くした感じ。ネットリしていて甘く、酸味はない。甘〜いのだが、少しくせのある匂いで、私の母は嫌っていた。だから、母は絶対におやつに「ポポ」を出してくれない。「ポポ」を好んで食べていたのは祖父と私。
あるとき、台風でこのポポが倒れてしまった。桃やぶどうが、いつ、どうして庭から姿を消したのかは全く記憶にないし、気にも留めたことがなかったが、ポポが台風で倒れてしまったことだけははっきりと記憶している。ポポを食べたいと思っても売ってない。
ところで、「ポポ知ってる?」と訊いても、「何、それ」という返事しか返ってこない。
時々思い出しては「ポポ知ってる?」と尋ねるが、知っている人に出会わない。名前が可愛らしいせいもあって、「あなたの作り話でしょ。」なんて、言われる始末。そのうち私も自信がなくなってきて、小さい頃の出来事だから何かの記憶間違いなのかな〜、なんて思ったりしていた。

いつだったか、アキハバラ塾の河口塾長にこの話をしたらおもしろがって、「よし、調べてみよう!」と、すぐネットで検索。
なんと、あるではないか!あるとわかれば、次は食してみたくなる。すぐさま塾長の知人の果物屋さんにとんでいった。
果物屋さんは即座に答えた。
「あんなまずいもの、食えん!」
え〜?甘くて美味しいという私の記憶は何かの間違いなの?
その後も何人かの人に聞いたが、年配で植物に興味のある人はポポのことを知っていて、皆一様に「まずい!」と言う。
ポポのことはこれで終わったと思っていた。


アキハバラ塾の第2期生に、山野草の大好きな竹本さんがいます。
塾長がいつポポのことを竹本さんに話したのか知りませんが、竹本さんの田舎の実家にポポの木があるのだそうです。
そして、このポポの実をわざわざ持ってきてくださったのです。


なんともいえない独特の甘〜い匂い!これ!これ!何十年ぶりだろう?
どうやって食べていたのか覚えていない。でも、この匂い、そしてこの甘さ。感激!おいしい!
後口の独特の甘さ、これも記憶している。
私の感激をよそに、竹本さんも、塾長も、シラ〜っとした感じでたべる。


私が美味しいと感じるのは、長年の記憶の中で美味しさが熟成されたからかもしれません。

私に、45年ぶりの感激を味わせてくれた塾長と竹本さんに感謝!


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