緊張感

私は学生の頃、よくダンスを観にいっていた。
東京ではダンス公演は山ほどあるが、限られた時間と金額の中で
選びながら観ていた。
パントマイム、モダンダンス、ポストモダン暗黒舞踏・・・・
(バレエは高すぎて手が出なかったし、当時はバレエに対する偏見を持ってたので観ていない。)

私は、開演直前の張り詰めた緊張感が大好きだ。
この緊張感は演技者だけでは創れない。
客席と舞台が一緒にならなければできないのだ。

息をするのもはばかられるほどの静けさに会場が包まれると、
心臓の鼓動までが聞こえてきそうになる。
体中の毛穴がすべて閉じてしまうような緊張感!

その緊張を打ち破るようにダンスが始まる。
一気にドガーン!と始まる場合もあれば、徐々に緊張を解きほぐすように
始まることもある。

ベジャールの「ボレロ」は、後者だろう。
緊張の細い糸をそ〜っと引くように、徐々に徐々に高まっていく。
そして最後に体中の毛穴は全開となって総毛立つように緊張のエネルギーが爆発して終わる・・・というのが、私のボレロに対するイメージ。

広島でのダンス公演を好きになれないのは、この緊張感がないからだ。開演のブザーが鳴ってもザワザワがおさまらない。
これは好き好きの問題だから仕方ないのかもしれないけれど、
いえ、広島でのダンスの捉え方は楽しむもので、私のような感覚が
邪道なのかも・・・
・・・でも、やっぱり私はシーンと水を打ったようなズキズキするような
緊張感から始まるダンスが好きだ。

シルヴィ・ギエムの踊る「ボレロ」なのに・・・
ザワザワがおさまらない!もっと静かになって!と祈っているのに、
いつの間にか始まった。最初の小さな小さな音を聞き逃してしまったかもしれない。ギエムの手に視線を集中する。なのに・・・
あちこちから鼻をすする音が聞こえる。「ボレロ」の時間なんてほんのちょっとじゃない。
鼻水たらしたまんまでもいいじゃない、すすって音を立てるのはやめてよ!
誰かが押し殺したように咳をすると今度は別の場所から。二人や三人ではない。誰かが咳をすると安心するのだろうか、連鎖的に咳が会場のあちこちから、聞こえてくる。
イライラして神経が高ぶってしまったのだろうか?
どうでもいいわけのわからない雑音まで聞こえてきた。

どうして広島でダンスを観るといつもこうなんだろう?
でも、初めて広島に来た25年前に比べると良くなった。
初めて広島でダンスを観にいったとき、客席でパンやらなにやら食べている人が結構いて、私はひっくり返りそうな気分になった。
今は客席で飲んだり食べたりする人はいないから、それだけでも
進歩かな?


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